牛(雄牛・雌牛・子牛) | イメージ シンボル 私家版小辞典

シンボル小辞典

1.うし(牛)を象徴として解読する場合の素材

【聖書関連】
金の子牛 (出エジプト 32:1-24)

【エジプト関連】
牛の前脚を投げたら北斗七星(おおくま座)になった話
豊穣の女神ハトホルは牛の頭を持つ

【ギリシャ神話関連】
ゼウスがエウロペをさらったときに変身した白牛

【日本関連】
天神様(菅原道真公)の神使としての牛
牛肉食のタブーの存在(中世の日本仏教)
十牛図(禅の世界)
牛に引れて善光寺参り(俳句・歌舞伎・・・)

 2.おうし(牛)のシンボルとしての考察

牛のイメージは「ゆったりした力強さ」と「豊かさ」です。見方によって「野性」にも「聖性」になります。同様に人間に身近な家畜である「馬」と比較してみるとイメージがはっきりしてきやすいでしょう。

インドでは牛が「神聖な生き物」として扱われますが、日本文化の世界だと「仏の世界へ導く」というテーマでもいくつか出てきます。有名なのは「十牛図」ですね。修行者が悟りにいたるプロセスを、人が牛を追うというストーリーで表現しています。ここでの「牛」は「悟り」のシンボルです。

わりと俗っぽく豪快なのはギリシャ神話の牛で、最高神が牛に化けて美女を誘拐するという筋立てです。

牛馬という熟語があります。牛と馬を比べると「牛=あまり手がかからない」「馬=わりと手がかかる」「牛=熱い南アジアも似合いそう」「馬=寒いユーラシア大陸の草原が似合いそう」といったところで、牛のほうが湿で暖なイメージ、馬のほうが乾で冷のイメージということもできるでしょう。(動物としての性質として、馬のほうが牛より熱さに弱い)

牛のイメージの東西比較

聖書神話と江戸時代以前の日本で比較してみると面白い状況で、「牛=邪教」VS「牛=聖性(仏性)」という対比もできます。「西洋のドラゴン(悪玉)VS東洋の龍(善玉)」というのと似ていて、「聖書の牛(邪)VS東洋の牛(聖)」と対比できるのは面白い所でしょう。

聖書の場合は偶像崇拝禁止というルールがある世界なので「牛の像を拝む」ことが悪とされるわけですが、出エジプト記には「1.モーセがいなくなると多くの人が金の子牛を拝んでいた」「2.モーセが帰ってきてやめさせた」という内容の話があり、「やはり、形のある神様のほうがみんなの受けはいいのか?」と思わせる話でもあります。

なお、ユダヤ教から枝分かれしたキリスト教では厳密に偶像崇拝禁止するのはやめたようで、マリア像やらイエスの絵画やらビジュアル表現をがっつり使う派が増えました。逆にユダヤ教・キリスト教を土台に別宗教として発展したイスラム教では、徹底して偶像を排除することで、美しい幾何学アートなデザインが発達したという話もあります。

現代のコンセプチュアルアートではユダヤ人に優れたアーティストが多いと言われることがあります。これは「偶像崇拝禁止」という宗教上のルールが、プラスに働いているのかもしれません。

生活の道具としての牛

自動車やトラクター以前、農耕や運搬に牛や馬はとても重要なものでした。自動車が広く一般化するのは20世紀になってからです。現代でも農耕牛というのは場所によってはまだまだ現役で活躍しています。日本国内だと西日本では主に牛が、東日本では主に馬が農耕の補助に使われていたようです。

食用という意味では、牛に関しては「食べないタブー」が中世の日本にはありました。これは仏教から「肉を食べない」という規範が広まった時期があったためです。この種のタブーはもともとは「貴重な労働力である牛馬を食べると自分たちが困る」と言う必要性に、宗教的な「牛は神聖」というイメ―ジがかけ合わさって広まったのかもしれません。

擬人化したキャラクターでいうと、「牛」は「馬」よりはマイペースなイメージになることが多いようです。このあたりは、「ネコは犬よりマイペースなイメージがある」というのと似ているかもしれません。

神への捧げものや儀式の道具としても古来用いられています。牛耳るという言葉がありますが、これは古代中国の諸侯が牛の耳を切りとって血をすする儀式(会盟)をしたことの名残です。牛の耳を切るのは最も有力な諸侯が行ったので、「仕切る」という意味で「牛耳る(ぎゅうじる)」という言葉が使われるようになりました。

なお、聖書のほうでは「犠牲や捧げものの動物」の役目は、もっぱら牛でも馬でもなく「羊」がになっています。

3.タロットでの牛

トート版の司祭(他のカードで言う教皇)のカードの雄牛は「豊かさ」や「安定感」のイメージで見ることができます。この牛は星占いのおうし座のシンボルとして読めば問題ないでしょう。ちょうどよく「神聖さ」を象徴するカードに描かれているので、「悟りのシンボル」として読める場合もあるかもしれません。

ウェイト版の運命の輪と世界にも牛が登場しますが、こちらの牛は「牛・ライオン・鷲・人」で「四大元素」的に扱われています。この場合は、ライオンと牛に注目して「ライオンは野性のシンボル。牛は家畜のシンボル」のようにイメージしてもいいかもしれません。「ライオン=野性=自由な生活、牛=家畜=集団での生活」みたいな視点です。

古典タロットは聖書の世界を土台にしてますので、「人・ライオン・牛・鷲」を「人間=マタイ、ライオン=マルコ、牛=ルカ 鷲=ヨハネ」とするキリスト教会のシンボリズムもふまえておくとよいでしょう。(詳しくは、エゼキエル書1章のエゼキエルの幻視も参照)

4.ざっくりまとめ 牛の意味

牛=「豊穣」「神聖性」「さとり」「強さ」

※同様に人間に身近な家畜である「馬」と対比してみよう
※家畜のシンボルとして野性のライオンと対比してみよう

 

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シンボル関連 参考文献など

キリスト教シンボル辞典(ミシェル・フイネ),ギリシャ神話シンボル辞典(ソニア・ダルトュ),図解古代エジプトシンボル事典(リチャード・H. ウィルキンソン) ,サインとシンボル(アドリアン・フルティガー),図像学入門(山本陽子),聖書,Wikipedia (English,日本語)etc

※この記事は、理解のステップとして面白いものをという編集方針を基本としています。(シンボルという言葉は極めて広い意味で使っています。)

nakajima oumi

nakajima oumi

シンボルと精神世界の研究家。 「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」。日本文化と欧米文化は異なるからこそ面白い。

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