未来のために過去を作る

エッセイ

より正確には目指す未来のために「必要な過去」を探してくる(場合によっては作る)ということになります。

歴史的にはとてもよくある話です。現代でも、CHINAの政治家が「沖縄はもともと清王朝に朝貢していたのだから日本のものではない」と主張することがあります。これは、要するに、CHINA勢力圏を沖縄まで広げたいので都合がよい過去を拾ってきてスポットを当てているわけです。(実際には、江戸時代の琉球王国(沖縄)は薩摩藩(鹿児島県)の支配化にあり、清国にも朝貢していましたが、内実は日本に属し、形式上は独立を保っていました。これは朝貢貿易という形式で清国と貿易すると大きなウマミがあったのが理由です。)

この「未来のために、過去をうまいこと利用する」というのは人間の一般的性質なので、似たようなことはどの国でも行われます。

日本国も朝鮮半島などを日本領としていた時代には「豊臣秀吉の唐入り(未完に終わった明国征服プロジェクト。いわゆる朝鮮出兵)」という歴史的事実は「偉業」として意識されました。「太閤殿下(秀吉公)も今や朝鮮が日本領となって喜んでいるであろう」という風に半島や大陸に勢力圏を広げることを正当化するために歴史を活用したわけです。

第二次大戦での敗戦後、秀吉の唐入り(朝鮮出兵)が「無謀な出兵」と批判的に解釈されることが増えたのは、ごく単純な理由で朝鮮半島や大陸の勢力圏を敗戦で失ったからです。あの出兵自体は、明側の歴史書に「とても勝てる戦ではない。秀吉の死で日本が撤退してくれて助かった」という趣旨の記述があるくらいで「途中で中止されたことで痛み分けに終わった」いうのが実際の所です。

「なりたい未来」から逆算して「必要な過去」にスポットを当てる(場合によっては必要な過去を作る)というのは人間のもつ普遍的性質なので、自分探しなどをする場合も、「どんな未来を目指すのか」というのを明確にすることが大切です。そうしてはじめて、ちょうど良い「ルーツとなる過去」を発掘してくることができます。「人生に必要なことは○○で全て学んだ」式の本を書くなら、昔の自分の行動や思考の中から現在につながっているものをピックアップして物語にすればよいのです。「体験したことは全て何かに活用する」という視点さえあれば簡単なことです。

不幸な過去を見つけたいなら「不幸な過去」を発掘するのは簡単です。幸せな過去を見つけたいなら「幸せな過去」を発掘してくることもまた簡単です。

幸せな未来を目指すなら、そう心に決めてから過去を振り返ることが大切です。出発点がずれていると、いくら過去のデータを集めても明後日の方向に行ってしまいます。

nakajima oumi

nakajima oumi

シンボルと精神世界の研究家。 「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」。日本文化と欧米文化は異なるからこそ面白い。

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