物語の基本構造としては、この二つはまず知っておく必要があります。
1.「行くと帰る」(Going and Returning)
2.「喪失と回復」(Lost and Recover)
逆に言うと、この二つの枠組み(フレームワーク)があれば物語を構造的に見ることはできるということです。これに「試練」とか「成長」とか、適切な抽象度のキーワードを組み合わせれば物語の枠組みは完成します。たくさんの要素がある複雑なフレームワークというのは、単純なフレームワークの拡張パックなのです。有名なキャンベルの「英雄の旅(ヒーローズジャーニー)」という枠組み(フレームワーク)も、単純化すれば「行く→試練→帰る」に集約されます。
青い鳥を探しに行く話、父親探しの話、居場所探しの話、などは「喪失と回復」で説明できます。アイデンティティーや居場所といったものが失われた状態で話がはじまり、満たされることでハッピーエンドを迎えます。放浪の英雄神が、怪物を退治し、お姫様と結婚して新居を構えるという英雄伝説はこのパターンです。
ex.「放浪の英雄(喪失=居場所がない)→怪物退治(試練)→結婚と新居(回復=居場所ができた)」
異世界を訪問して元の世界に帰る話、浦島太郎や海幸山幸や羽衣伝説などは「行くと帰る」での説明が可能です。アレンジしたものとしては、天孫降臨のように、天上界から地上界へおりてきて「行きっぱなし」というのもあります。現代の漫画でいえば、テルマエ・ロマエのように「古代ローマ→現代日本へタイムスリップ→古代ローマ」という進行で進む「行って帰ってくる」物語です。もちろん、物語なので単に行って帰るわけではなく、たいていの場合は異世界の宝を持って帰ってきます。
ex.「古代ローマ(問題発生) →(行く)→現代日本へタイムスリップ(問題解決のヒントを得る)→(帰る)→古代ローマ(問題解決)」
古代の神話から現代の漫画作品まで、多くのストーリーの奥には「行くと帰る」(Going and Returning)と「喪失と回復」(Lost and Recover)という枠組みが隠されているのです。
この視点をビジネス的に説明すると一般人にとってのホテルのスイートルームは
「特別な非日常空間に行く→宝物になる体験をする→日常空間に帰ってくる」
という「行くと帰る」モデルで説明できます。
また、
「自社の問題点に気がついてもらい(喪失の状態)→問題解決を提供する(回復の状態)」
というのもビジネス書作家からIT企業の営業パーソンまで、多くの人が使っている手法の一つですが、これも「喪失と回復」というストーリーの枠組みにのっていると説明することができます。現代の場合、昔のような分かりやすい欠乏状態は少なくなっているので「相手が潜在的に失っているもの」に自然に注目してもらえるように誘導するところからはじまるのが現代的な部分です。