進歩史観というファンタジー

エッセイ

進歩史観というのは、昔から今に至るまで人間はまっすぐ進歩してきたという視点のことです。数直線的に古代から現代まで進化・発展してきたという視点のことをここでは進歩史観と呼びます。この視点は実は120%間違っています。

機械の性能等に関しては、ここ数百年くらいに関して言えばこの史観は当てはまります。パソコンなどが良い例です。ただ、思想的なものは古代が現代に比べて劣っていたということは全くありません。むしろ古代の黄金時代から現代に向かって退化してきたと仮定することさえできます。武術やダンスなどの身体文化的なものも、古代のほうが優れていた可能性は大いにあります。

いわゆる文系科目、思想や神学のように人間の頭の中で完結できるタイプの学問に関しても、「古代→中世→現代」と現代が一番すぐれていると考えるのは大きな間違いです。哲学史などの本を初めて読んだ初心者がたまに誤解する部分ですが、別にフッサールがプラトンより進歩していて優れているわけではありません。単に「目の前の問題に対して、各自がどれが使いやすいか」という問題にすぎません。

イエスやブッダの説いた教えと現代の精神的な教師たちが説く教えと、どちらが優れているかといって優劣のつけようはあまりありません。そもそも心理や人間の本質といったものを学ぶ場合、時代や地域を超えた普遍性を持つ教えであるがゆえに役にたつのであってそうでなければ何の役にもたちません。ファッションの色の流行と違って毎年コロコロと新しくすることに価値があるようなものではないのです。

「持っている人は更に与えられ、持っていない人は持っているものまでも
取り上げられるであろう。(金持ちはますます金持ちに。貧乏人はますます貧乏に。)」(イエス)

「頭髪が白くなったからとて、尊敬できる長老ではない。ただのむなしい老いぼれである。」(ブッダ)

「心だに誠の道に適ひなば 祈らずとても神や守らむ(人事を尽くせば天は勝手に助けてくれる的な意味)」(伝 菅原道真)

こうしたものはまさに時代を超えた名言と言えるでしょう。良い悪いではなく物事の本質をよく表現しています。

人間の性質というものには時代と地域を越えたある程度の普遍性があります。似たような構造の物語が世界各地に転がっているのもこれが大きな理由の一つです。

 

別の例で考えて和歌を比較してみましょう。

1.奈良時代の万葉集の和歌

「田子の浦ゆうち出でてみれば真白にぞ 富士の高嶺に雪は降りける」(万葉集)

2.後の時代に改作された和歌

「田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ」(新古今集)

この二つを比べてみましょう。

どちらも今の静岡から見た富士山の美しさをたたえた歌です。砂浜から見たのか、船から見たのかは謎ですが、海から富士山を眺めるほうが雄大なイメージは出るような気がします。

なお「降りける」は過去形で「降りつつ」は現在進行形です。雪がふっている富士山を眺めるのか雪が積もった富士を眺めるのかなど、細かくみて見ると少し違う情景をイメージすることになる和歌です。

この二つを比べてどちらが優れているのかと言ったら、優劣はつけがたいというのが公正な視点です。万葉集の雄大でストレートな美しさに比べ、新古今集は技巧的な美しさが目立つというのが平均的な
視点かと思います。これは、技巧的な優雅さが好みか、素朴さを好むかで意見が分かれる部分でしょう。

 

人類の歴史というのは単に変化の連続なのであって、ユートピアに向かって進化していくという物語ではないのです。

 

nakajima oumi

nakajima oumi

シンボルと精神世界の研究家。 「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」。日本文化と欧米文化は異なるからこそ面白い。

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