富と名誉は持っていても、実力(武力)は衰えている旧勢力、
実力(武力)はあるが、名誉や富は持っていない新勢力
この二つの勢力の世代交代が起きそうになった時に、旧世代側は常に抵抗をするものです。この時に知恵をしぼって行われる抵抗活動の一つが、相手を強めることで、逆に弱体化を狙うという作戦です。
平安風にいえば「位打ち」です。別名「褒め殺し」ともいいます。平安末期の朝廷は、新興の軍事貴族(武士)勢力にどんどん高い官位を与えることで、無害化して取り込んでしまおうという作戦をとりました。結果、東国を主な勢力圏にする鎌倉幕府と西国を主な勢力圏とする京都の朝廷、といった二重体制が成立します。しかし、次の鎌倉時代以降は武士勢力がだんだんと力を強めていきます。一時的には後醍醐天皇が政権を武士から奪還しますが、南北朝時代が終わると朝廷の勢力はすっかり衰えてしまいます。
日本神話でも、国譲り神話で似たようなストーリー構造があります。
オオクニヌシと子孫たちを旧勢力
アマテラスとその子孫たちを新勢力
こう考えて、国譲りを世代交代劇ととらえると、オオクニヌシ側は、アマテラス側の神々を、富などを与えることで懐柔してしまいます。相手を強めることで相手を弱めてしまう、という弱者の戦術そのものです。なので、アマテラス側は三回使者を派遣していますが、最初の二人は全てオオクニヌシ側に取りこまれてしまいました。そこで、三組目は武器をもった軍神を派遣して武力を背景として国譲り交渉を成立させます。
この二つの例では、旧勢力側の抵抗を打ち破るのは、新世代側の武力でした。世代交代にともなって戦いが起きるというモチーフはギリシャ神話にもありますが、正面からの親世代と子世代が戦うというバターン以外にも「旧世代側が買収や取り込み工作を試みるけど、結局は実力によって決着がつく」というパターンもあるわけです。